二極化か多極化-米中が描く未来図

米中対立が当たり前となってしまった今、アメリカと中国が何を目指して対立を続けるのかについて真剣に考える機会が減ってきているように思います。しかし、この根本的な問題は、国際社会の未来を考える上で非常に重要なことです。冷戦は、ソ連とアメリカがそれぞれの理想を追った為に衝突した時代でした。今の米中対立は新たな冷戦かどうかは別として、アメリカと中国も同じように「あるべき姿」を追求しています。今回のブログ記事では、現在の国際情勢を紐解いて、二国がどのような国際社会を築こうとしているのかについて考えたいと思います。

アメリカと中国が求める国際社会像は大きく違います。アメリカは今、「敵対味方」と言う二極化した世界を描こうとしています。これは、何もアメリカが最初から二極化した世界を望んでいたという訳ではありません。冷戦後のアメリカは覇権国としてのステータスを維持しようとしました。しかし、単独で自国の価値観を押さえつけると国際社会から反感を買うので、時には国際的な枠組みを通して、その影響力を発揮しました。例えば、G7+1(+1はロシア)と言う形でG8を発足させましたし、中国がWTOに加盟することを渇望していました。今後「敵」となるポテンシャルのある国を国際的な枠組みに参加させることにより、少しづつリベラル民主主義に移行するように働きかけました。しかし、2022年のロシアによるウクライナ侵攻でその試みは終わります。2014年のクリミア半島の併合(結果としてロシアはG8の活動停止)のように、それ以前にも兆候はありましたが、決定打となったのは2022年2月の出来事です。そして、アメリカは、ウクライナ侵攻に対する対抗措置は自国だけでは対応できないのも理解していました。私は、アフガニスタン撤退がこの判断に大きく影響していたと考えています。2021年8月にアメリカがアフガニスタンから撤退した直後にタリバンが政権を奪還しました。この戦争で、アメリカが支払った金額は2.3兆ドルにのぼります。そして、この20年間にもわたる戦争で7万人のアフガニスタン人とパキスタン人の市民が亡くなっています。世論調査にこの事実に対する、アメリカ国民の反応が顕著に表れています。2021年9月に行われた世論調査では、35%の世論が「アフガニスタンでの戦争は正しかった」と答えています。逆に言えば、国民の約2/3は間違った戦争だったと考えていることになります。軍隊を派兵することがあまりにもハードルが高くなってしまったアメリカは、他の方法を探す必要がありました。そして、行きつくのが米ドルの武器化=経済制裁です。経済制裁は、長年アメリカの安全保障政策のオプションの一つとして存在していました。しかし、この規模で行うのは初めてです。そして、いくら米ドルと言っても、経済制裁を最も効果的にする為には、他国の協力が必要です。協力国が少ないと対象国(この場合のロシア)が、難なく代替取引先、代替通貨を探せてしまうからです。EUもロシアからの原油、石炭等の資源を禁輸していますが、ヨーロッパに売れなくなった原油は中国やインドが購入しています。これらの取引きは、中国人民元やインドルピー等の他の通貨が使われています。他の通貨で取引ができるのであれば、米ドルの武器化の効力も弱くなってしまいます。米ドルが世界通貨であることがアメリカの影響力を維持できている要因の一つですが、あまりにアメリカがそれを政治利用すると、その信用度は下がってしまいます。そのジレンマに今、アメリカは直面しています。いずれにしろ、アメリカは自国だけでは国際秩序を保つことができないことを痛感しています。その為に、味方を多く作り、その結束力を強めることが非常に重要になってきています。

一方で、中国は二極化した世界を望んでいません。中国は、覇権主義と見做すアメリカに対して内政干渉をされる度に批判声明を発しますが、「敵対味方」が中国が描く未来図の基軸ではありません。中国にとって、内政干渉は主権侵害です。新疆ウイグル自治区、チベット、内モンゴル自治区での「教育改革」、香港国家安全法の策定、台湾問題等について、アメリカを筆頭とする他国が口出しすることを極端に嫌います。中国にとって、望ましい国際社会は、そのような内政干渉をし合わない世界。それは、価値観、文化、政治体制等を共有するブロックがいくつも存在し、お互いに干渉しあわないことが原則としてある多極体制の国際社会です。これは、中国だけが言っていることではありません。この多極体制は、アメリカが中心となった一極化に挑戦する国々の常套句です。ロシアやイランのような地域的メインプレイヤーもアメリカを批判する際には、世界は多極体制であるべきで、各国の価値観を尊重するべきだ、と言うメッセージを発信します。確かに聞こえはいいですが、裏返せば、特定の民族、宗教、セクシュアリティ、女性等に対する人権が侵害されていても、どの国も口出しするな、ということです。現に、The Human Freedom Indexでロシアは126位、中国は150位、イランは160位の順位に位置しています。また、中国が掲げる多極化した国際社会は、経済重視とも言えるでしょう。国際貿易が今の世界経済の根幹をなしています。確かに、ロシアが経済制裁にあったり、アメリカが自国第一主義に寄ってはいますが、引き続き国境を越えた貿易はなくなりません。モノ、サービス、カネが世界中を行き交う中で、多極化した世界(つまりお互いを内政干渉をしない世界)は、人権侵害への対抗措置としての経済制裁もなくなります。中国にとって、安全保障や政治が経済活動を左右することがネックなのです。

今の、またこれからの米中対立は、二極化した世界を描こうとしているアメリカと多極化を望む中国の対立です。特に、ウクライナ侵攻をきっかけにその傾向は一層強まりました。アメリカは自国による措置が限られている中、より多くの「味方」の協力が必要なのです。それと同時に、明確な「敵」も必要としています。今はロシアがその「敵」ですが、中国がどちらにつくかを見極めているところです。繰り返しになりますが、アメリカは自国の力だけでは、世界の「秩序」を保つことはできないことをはっきり自覚しています。そのため、NATO、新たな安全保障の枠組み、同盟国を通して、自国の思想・価値観、経済的な繋がり、軍事的な抑止力を強化しようとします。しかし、私は、冷戦時代のように、西側対東側と言う二極化した世界は訪れないと思っています。それよりも、第三、第四、または第五の勢力が影響力を持つ、つまり多極化した世界に近い構図になると考えています。しかし、これもまた中国が望む、内政干渉しない世界とは異なります。なぜなら、アメリカを中心とした西側は、他国への干渉を止めないからです。止めてしまうと、これまで作り上げてきた同盟や国際的な枠組みが崩壊してしまうからです。そして、西側でもなく、東側でもない、「それ以外の勢力」はどちらにもにつかずに、いわゆる非同盟のスタンスを取るでしょう。これは、冷戦からの教訓であり、そしてグローバリズムと技術革新により小国が以前よりもプレゼンスを向上したからだと私は考えます。また、以前のブログ記事でも書いたように、グローバルサウスの結束力も大きな要因とも言えます。そういう意味でも、グローバルサウスのリーダー的な存在のインドの役割はこれからも非常に注目されるでしょう。冷戦時代とあまりにも状況が違う今、冷戦を繰り返すことは出来ませんし、殆どの国がそのような世界に参加したいと思っていません。冷戦時代は、核戦争のようなカタストロフィを回避しましたが、二度同じ結末になるとは誰も保証できないからです。

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